2011年3月11日以降、国内外問わず「日本の発信力」ということへの関心が高まっているように思う。
東電・政府からのメッセージ発信、原発を巡る国内外でのメディア報道、そして海外で巻き起こる日本風評被害など、これらの事象をきっかけに「日本の発信力」について危機意識を持った人は人は少なくないはずである。
今回は特に海外へ対しての「日本の発信力」を強くする方法を、私なりに3つご提案したい。
1.国際世論を醸成する日本発の国際会議をつくろう!
今、世界世論を動かしているのが民間主導WEFのダボス会議であろう。国主導のサミットでは最早、世界世論は動かない。
しかしながら、ダボス会議はヨーロッパ主導の発信装置。やはりアジア発のものが必要。
主催国の候補として日本か中国が考えられるが、民主主義がまだ徹底していない中国では難しいだろう。
するとやはり、日本が唯一の選択肢となる。
これからは世界の有識者を囲い込み、世界世論を醸成する国際会議の有無が国の発信力を決めると私は考えている。
2.グローバルネットワークを持ち、グローバル展開できる日本発戦略PRファームをつくろう!
今、欧米の戦略PRファームが世界を席巻している。
欧米企業のみならず、中国やインドなどの新興国の企業をどんどんサポートしている。
彼らは、グローバル事業戦略とその実現に必要なグローバル・コミュニケーション戦略を融合する役割を担っているのである。
しかしながら、欧米の戦略PRファームはまだ、本格的に日本の企業を囲い込んでいない。
そして、これからは日本の企業が本格的にグローバルに進出する、“日本企業グローバリゼーション2.0の時代”。
しかも、そのような日本企業の数は半端ではない。
ある調査によると、世界展開できる企業数、なんと日本がダントツの1位!2位のアメリカを圧倒している。
日本企業のグローバル事業戦略とグローバル・コミュニケーション戦略を連動させる役割を果たす、日本発の戦略PRファームをつくることが日本の競争力を大幅に引き上げることに繋がる。
3.世界を相手にコミュニケーションで活躍できる人材を育成しよう!
グローバルなコミュニケーション人材において量、質ともに欧米と比べると、残念がながら日本は大きく遅れていると言わざるを得ない。
中国や韓国においても見劣りする。(彼らは、コミュニケーションの重要性に気づいている)
日本にとってコミュニケーションにおけるグローバル人材の育成、強化が急務である。
上述の「世界の世論をリードする日本発の民間主導の国際会議の創設」と「日本発の戦略PRファームの構築」がコミュニケーションのグローバル人材の育成、強化の場を提供する。
PR先進国であるアメリカのコミュニケーション力を支えているのは、大統領選挙である。
この4年に一回あるイベントを通じて、最先端のコミュニケーション技術と人材が蓄積、育成され、それらのノウハウを体得した多様な人材が政府、企業、PRファームに流れ、アメリカ全体の戦略コミュニケーション力人材が開発の基盤になっているのである。
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*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。
~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~
田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長
1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。
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2011年8月11日木曜日
2011年8月5日金曜日
クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府・後編(戦略コミュニケーションで斬る*第21回)
(前回からの続き)
守りのコミュニケーションとは一言で云うと周りの期待とどう上手く付き合っていくかである。
専門的にはExpectation Management Communication、つまり期待を読み取り、その期待に答えるメッセージを戦略的に出して行くコミュニケーションである。
対外的的な威信の確保という従来の攻めのコミュニケーションでは、これら新たな状況変化には対応できない。クライシス・コミュニケーションの要は、事故や事件が起きた時に何を目標設定とするか、である。
高速鉄道事故においては中国はその従来の基本路線に従い、目標を「対外的な威信の確保」と設定、海外を意識、ハイスピードで復旧、再稼働をする事がその目標実現につながると判断した。国際世論を国内世論に優先させた。
ところが、その一連の動きが被害者遺族、マスメディア、そして国内世論を激怒させる。その結果、当局に対する国内世論の批判は国際世論に伝播、中国のレピュテーション(評判)を世界的に棄損させることになった。
クライシス対応で最も重要なのが目標設定である。何を目標設定するかによってその後の対応、伝播されるメッセージが変わってくる。
ところが、これが難しい。クライシスの時は当たり前のことが当たり前でなくなる。判断者は様々な状況に影響を受けやすくなるからである。有事の際に適切な判断に基づいて目標設定するのは至難の技であり、同時にクライシス・リーダーシップが最も問われる場面でもある。
今回の高速鉄道事故の場合は、本来あるべき目標設定は被害者への追悼、被害者遺族への配慮、原因究明の徹底、慎重な再稼働である。相手は海外でなく、 国内であった。この構図は従来の中国のコミュニケーションの基本路線の中にはなかった。
3.11の福島第一原発対応でも、クライシスに対する目標設定の是非が問われる。
政府当局の目標設定は原子炉のメルトダウンを回避する事とした。そのため、電源車の確保、ベントの実施など、すべてのエネルギーがメルトダウン防止に振り向けられた。少なくてもはじめの3日間は、対応のすべての動きがメルトダウン回避に集中した。
本来であれば、国民の生命を守ることに目標が設定されるべきである。そうであれば、メルトダウン防止は国民の生命を守る一つの手段にすぎない。射性物質が漏れ出た場合、どう地域住民を避難させるかも同時並行で検討されるべきものであった。
結果、一号機が水素爆発した時に迅速な避難勧告ができず、射性物質の流れ出るルートを政府は予測していたにも関わらず、情報公開がされず、多くの住民が避難先で被爆するという悲劇が起こってしまった。
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田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長
1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。
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守りのコミュニケーションとは一言で云うと周りの期待とどう上手く付き合っていくかである。
専門的にはExpectation Management Communication、つまり期待を読み取り、その期待に答えるメッセージを戦略的に出して行くコミュニケーションである。
対外的的な威信の確保という従来の攻めのコミュニケーションでは、これら新たな状況変化には対応できない。クライシス・コミュニケーションの要は、事故や事件が起きた時に何を目標設定とするか、である。
高速鉄道事故においては中国はその従来の基本路線に従い、目標を「対外的な威信の確保」と設定、海外を意識、ハイスピードで復旧、再稼働をする事がその目標実現につながると判断した。国際世論を国内世論に優先させた。
ところが、その一連の動きが被害者遺族、マスメディア、そして国内世論を激怒させる。その結果、当局に対する国内世論の批判は国際世論に伝播、中国のレピュテーション(評判)を世界的に棄損させることになった。
クライシス対応で最も重要なのが目標設定である。何を目標設定するかによってその後の対応、伝播されるメッセージが変わってくる。
ところが、これが難しい。クライシスの時は当たり前のことが当たり前でなくなる。判断者は様々な状況に影響を受けやすくなるからである。有事の際に適切な判断に基づいて目標設定するのは至難の技であり、同時にクライシス・リーダーシップが最も問われる場面でもある。
今回の高速鉄道事故の場合は、本来あるべき目標設定は被害者への追悼、被害者遺族への配慮、原因究明の徹底、慎重な再稼働である。相手は海外でなく、 国内であった。この構図は従来の中国のコミュニケーションの基本路線の中にはなかった。
3.11の福島第一原発対応でも、クライシスに対する目標設定の是非が問われる。
政府当局の目標設定は原子炉のメルトダウンを回避する事とした。そのため、電源車の確保、ベントの実施など、すべてのエネルギーがメルトダウン防止に振り向けられた。少なくてもはじめの3日間は、対応のすべての動きがメルトダウン回避に集中した。
本来であれば、国民の生命を守ることに目標が設定されるべきである。そうであれば、メルトダウン防止は国民の生命を守る一つの手段にすぎない。射性物質が漏れ出た場合、どう地域住民を避難させるかも同時並行で検討されるべきものであった。
結果、一号機が水素爆発した時に迅速な避難勧告ができず、射性物質の流れ出るルートを政府は予測していたにも関わらず、情報公開がされず、多くの住民が避難先で被爆するという悲劇が起こってしまった。
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*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。
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田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長
1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。
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2011年8月4日木曜日
クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府・前編(戦略コミュニケーションで斬る*第20回)
クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府。
今回の高速鉄道事故への対応は中国政府のクライシスでのコミュニケーション力の脆弱性を露呈する結果となった。従来、中国は対外的には攻めのコミュニケーションを行ってきた。海外に強いメッセージを出すことによって、世界を牽制、一方で海外に強い姿勢を示すことによって国内に鬱積した不満の解消を図ってきた。中国のコミュニケーションの基本戦略は、あくまでも対外的な威信の確保であった。それによって国内の不満を抑える意図があった。
日本とぶつかった尖閣諸島の問題においても、このコミュニケーションの基本戦略を踏襲、当初は日本に対して強硬な姿勢を示し続けた。ところが、想定外だったことは国際世論が、中国の強硬姿勢に反発、結果、中国の資源外交は行き詰まり、中国企業の海外進出に海外からの反発を生み、中国自身が「実害」を被る。
今回の高速鉄道事故においても、中国のコミュニケーションの基本戦略は変わらなかった。
その目標設定は、あくまでも対外的な威信の確保であった。
とにかく、早く復旧、高速鉄道を始動させる事が対外的な威信の確保につながると判断、その基本戦略で動く。事故車両を埋めたのも、復旧を急ぐという脈絡からは理解できる。ところが、尖閣諸島問題と同じように、再び想定外の反発が起こる。尖閣諸島問題の時は国際世論だったが、今度は国内世論である。この想定外な展開に中国当局は翻弄される。温家宝首相が6日後とかなり遅れて現地入りした事が事態の進捗が想定外であった事を象徴している。
中国のコミュニケーションの基本方針は対外的な威信の確保である。
とにかく、早く再稼働する事が至上命題である。そのため、原因究明のプロセスを疎かにする。はじめは落雷によると発表、次に信号機故障したと修正、最後にはソフト設計のミスにより自動停止装置始動しなかったと説明が二転三転する。この説明の一貫性の無さが不信感を煽り、政府当局に対する世論の怒りを加速させる。
中国は攻めのコミュニケーションから守りのコミュニケーションへの戦略転換が求められる。
従来のような対外的的な威信の確保という基本路線では対応できない状況変化が起こっている。状況変化とは世界第二位の経済大国になることで海外の目が厳しさを増す。ますます大人の国として行動することが期待されて来る。国内も同じである。
経済発展は人々の意識を変える。政府に対してより透明性を求める声が大きくなってくる。政府活動の透明性への期待が高まって来る。また、マスメディアが変わってくる。今回の注目点は中国メデイアが引いていないことである。かなりひつこく当局を攻めている。さらには、ソーシャルメデイアが、当局の規制強化にも関わらず、その動きを強めている。(次回へ続く)
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*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。
~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~
田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長
1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。
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今回の高速鉄道事故への対応は中国政府のクライシスでのコミュニケーション力の脆弱性を露呈する結果となった。従来、中国は対外的には攻めのコミュニケーションを行ってきた。海外に強いメッセージを出すことによって、世界を牽制、一方で海外に強い姿勢を示すことによって国内に鬱積した不満の解消を図ってきた。中国のコミュニケーションの基本戦略は、あくまでも対外的な威信の確保であった。それによって国内の不満を抑える意図があった。
日本とぶつかった尖閣諸島の問題においても、このコミュニケーションの基本戦略を踏襲、当初は日本に対して強硬な姿勢を示し続けた。ところが、想定外だったことは国際世論が、中国の強硬姿勢に反発、結果、中国の資源外交は行き詰まり、中国企業の海外進出に海外からの反発を生み、中国自身が「実害」を被る。
今回の高速鉄道事故においても、中国のコミュニケーションの基本戦略は変わらなかった。
その目標設定は、あくまでも対外的な威信の確保であった。
とにかく、早く復旧、高速鉄道を始動させる事が対外的な威信の確保につながると判断、その基本戦略で動く。事故車両を埋めたのも、復旧を急ぐという脈絡からは理解できる。ところが、尖閣諸島問題と同じように、再び想定外の反発が起こる。尖閣諸島問題の時は国際世論だったが、今度は国内世論である。この想定外な展開に中国当局は翻弄される。温家宝首相が6日後とかなり遅れて現地入りした事が事態の進捗が想定外であった事を象徴している。
中国のコミュニケーションの基本方針は対外的な威信の確保である。
とにかく、早く再稼働する事が至上命題である。そのため、原因究明のプロセスを疎かにする。はじめは落雷によると発表、次に信号機故障したと修正、最後にはソフト設計のミスにより自動停止装置始動しなかったと説明が二転三転する。この説明の一貫性の無さが不信感を煽り、政府当局に対する世論の怒りを加速させる。
中国は攻めのコミュニケーションから守りのコミュニケーションへの戦略転換が求められる。
従来のような対外的的な威信の確保という基本路線では対応できない状況変化が起こっている。状況変化とは世界第二位の経済大国になることで海外の目が厳しさを増す。ますます大人の国として行動することが期待されて来る。国内も同じである。
経済発展は人々の意識を変える。政府に対してより透明性を求める声が大きくなってくる。政府活動の透明性への期待が高まって来る。また、マスメディアが変わってくる。今回の注目点は中国メデイアが引いていないことである。かなりひつこく当局を攻めている。さらには、ソーシャルメデイアが、当局の規制強化にも関わらず、その動きを強めている。(次回へ続く)
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1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。
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