過去30年にわたり、今までに国内外で5000件以上に及ぶリーダーの取材に同席してきた。そこから見えてくるリーダーシップを支える対話における格闘技力のポイントを9つ列記する。
(1)まず、対話を行う上で、その目的意識の有無である。
優れて取材に強いリーダーの特徴は強烈なまでの取材に対する目的意識である。こちらの目的をしっかり意識しながら記者との対話をしきる。リーダーの対話は力の行使である。その力を行使する目的が明確に意識されているか否かでパワーのレベルが違ってくる。
逆に目的意識の無い対話はパワーが弱いだけでなく、危険だと思った方が良い。取材においてトップの目的意識が弱いと「要らぬ事を言ってしまう」事態に陥る。往々にして、記者はその「要らぬ事」を求めている。そして、その「要らぬ事」が公になることによって、事業の推進に支障を大きくきたす事にもなる。取材において記者に「致されない」ためには、目的意識を明確に持つことが取材のリスクをヘッジする上で第一の必要条件である。
取材を受ける目的は多種多様であるが、基本的にはその目的は取材の記事化を通じて「特定の相手にこちらのメッセージが伝わり、こちらが望む行動をして欲しい」のである。例えば、新商品、新サービスを20代の男性に買って欲しい、米国のファンドが会社に投資して欲しい、意欲を持って新入社員が仕事して欲しい、リストラに中間管理職が理解を示して欲しい、企業再生に社員をはめ多くのステークホルダーに協力して欲しいなどである。政治の世界であれば、国民にある政策を支持して欲しい、有権者に投票して欲しいなどなど様々である。
要はどれだけしっかりと特定の相手を動かすメッセージが伝わるよう記者に記事を書いてもらうかである。勿論、記者側では、いたってこちらの意図には無頓着、無関心である。読者にとっては面白い記事が書ければ良い。そこでリーダーの対話力がものを云う。孫子の「善く戦う者は、人に致して人に致されず」である。記者を「致さ」なければならない。記者を「致す」とは、記者自身も共感、納得した上で、こちらの望む記事を書いてもらうことである。この1時間から2時間の取材過程が対話の格闘技戦なのである。
ところで、目的意識を明確に持つとはどのような事か。
目的を漠然とした抽象イメージで捉えるのではなく、細部までクリアーに見える実写のレベルまでイメージすることである。老齢でいらっしゃるが、ある日本を代表する創業者トップの方は自分の目的意識を実写レベルから天然色の動画になる程にイメージする。半端じゃない。これぐらいになると、目的が実現する過程や実現したシーンをフルカラーの動画で実際に見ているかのように言語、非言語コミュニケーションで記者に伝えることができるので、リスクヘッジという視点を超えて、記者を共感、納得させる程にメッセージに凄みが出てくる。
(つづく)
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