2011年8月11日木曜日

これからの日本の発信力の話をしよう (戦略コミュニケーションで斬る*第22回)

2011年3月11日以降、国内外問わず「日本の発信力」ということへの関心が高まっているように思う。

東電・政府からのメッセージ発信、原発を巡る国内外でのメディア報道、そして海外で巻き起こる日本風評被害など、これらの事象をきっかけに「日本の発信力」について危機意識を持った人は人は少なくないはずである。

今回は特に海外へ対しての「日本の発信力」を強くする方法を、私なりに3つご提案したい。

1.国際世論を醸成する日本発の国際会議をつくろう!

今、世界世論を動かしているのが民間主導WEFのダボス会議であろう。国主導のサミットでは最早、世界世論は動かない。

しかしながら、ダボス会議はヨーロッパ主導の発信装置。やはりアジア発のものが必要。

主催国の候補として日本か中国が考えられるが、民主主義がまだ徹底していない中国では難しいだろう。

するとやはり、日本が唯一の選択肢となる。

これからは世界の有識者を囲い込み、世界世論を醸成する国際会議の有無が国の発信力を決めると私は考えている。

2.グローバルネットワークを持ち、グローバル展開できる日本発戦略PRファームをつくろう!

今、欧米の戦略PRファームが世界を席巻している。

欧米企業のみならず、中国やインドなどの新興国の企業をどんどんサポートしている。

彼らは、グローバル事業戦略とその実現に必要なグローバル・コミュニケーション戦略を融合する役割を担っているのである。

しかしながら、欧米の戦略PRファームはまだ、本格的に日本の企業を囲い込んでいない。

そして、これからは日本の企業が本格的にグローバルに進出する、“日本企業グローバリゼーション2.0の時代”。

しかも、そのような日本企業の数は半端ではない。

ある調査によると、世界展開できる企業数、なんと日本がダントツの1位!2位のアメリカを圧倒している。

日本企業のグローバル事業戦略とグローバル・コミュニケーション戦略を連動させる役割を果たす、日本発の戦略PRファームをつくることが日本の競争力を大幅に引き上げることに繋がる。

3.世界を相手にコミュニケーションで活躍できる人材を育成しよう!

グローバルなコミュニケーション人材において量、質ともに欧米と比べると、残念がながら日本は大きく遅れていると言わざるを得ない。

中国や韓国においても見劣りする。(彼らは、コミュニケーションの重要性に気づいている)

日本にとってコミュニケーションにおけるグローバル人材の育成、強化が急務である。

上述の「世界の世論をリードする日本発の民間主導の国際会議の創設」と「日本発の戦略PRファームの構築」がコミュニケーションのグローバル人材の育成、強化の場を提供する。

PR先進国であるアメリカのコミュニケーション力を支えているのは、大統領選挙である。

この4年に一回あるイベントを通じて、最先端のコミュニケーション技術と人材が蓄積、育成され、それらのノウハウを体得した多様な人材が政府、企業、PRファームに流れ、アメリカ全体の戦略コミュニケーション力人材が開発の基盤になっているのである。

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*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~
田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年8月5日金曜日

クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府・後編(戦略コミュニケーションで斬る*第21回)

(前回からの続き)

守りのコミュニケーションとは一言で云うと周りの期待とどう上手く付き合っていくかである。

専門的にはExpectation Management Communication、つまり期待を読み取り、その期待に答えるメッセージを戦略的に出して行くコミュニケーションである。

対外的的な威信の確保という従来の攻めのコミュニケーションでは、これら新たな状況変化には対応できない。クライシス・コミュニケーションの要は、事故や事件が起きた時に何を目標設定とするか、である。

高速鉄道事故においては中国はその従来の基本路線に従い、目標を「対外的な威信の確保」と設定、海外を意識、ハイスピードで復旧、再稼働をする事がその目標実現につながると判断した。国際世論を国内世論に優先させた。

ところが、その一連の動きが被害者遺族、マスメディア、そして国内世論を激怒させる。その結果、当局に対する国内世論の批判は国際世論に伝播、中国のレピュテーション(評判)を世界的に棄損させることになった。

クライシス対応で最も重要なのが目標設定である。何を目標設定するかによってその後の対応、伝播されるメッセージが変わってくる。

ところが、これが難しい。クライシスの時は当たり前のことが当たり前でなくなる。判断者は様々な状況に影響を受けやすくなるからである。有事の際に適切な判断に基づいて目標設定するのは至難の技であり、同時にクライシス・リーダーシップが最も問われる場面でもある。

今回の高速鉄道事故の場合は、本来あるべき目標設定は被害者への追悼、被害者遺族への配慮、原因究明の徹底、慎重な再稼働である。相手は海外でなく、 国内であった。この構図は従来の中国のコミュニケーションの基本路線の中にはなかった。

3.11の福島第一原発対応でも、クライシスに対する目標設定の是非が問われる。

政府当局の目標設定は原子炉のメルトダウンを回避する事とした。そのため、電源車の確保、ベントの実施など、すべてのエネルギーがメルトダウン防止に振り向けられた。少なくてもはじめの3日間は、対応のすべての動きがメルトダウン回避に集中した。

本来であれば、国民の生命を守ることに目標が設定されるべきである。そうであれば、メルトダウン防止は国民の生命を守る一つの手段にすぎない。射性物質が漏れ出た場合、どう地域住民を避難させるかも同時並行で検討されるべきものであった。

結果、一号機が水素爆発した時に迅速な避難勧告ができず、射性物質の流れ出るルートを政府は予測していたにも関わらず、情報公開がされず、多くの住民が避難先で被爆するという悲劇が起こってしまった。

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田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
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2011年8月4日木曜日

クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府・前編(戦略コミュニケーションで斬る*第20回)

クライシス・コミュニケーションの洗礼を受ける中国政府。

今回の高速鉄道事故への対応は中国政府のクライシスでのコミュニケーション力の脆弱性を露呈する結果となった。従来、中国は対外的には攻めのコミュニケーションを行ってきた。海外に強いメッセージを出すことによって、世界を牽制、一方で海外に強い姿勢を示すことによって国内に鬱積した不満の解消を図ってきた。中国のコミュニケーションの基本戦略は、あくまでも対外的な威信の確保であった。それによって国内の不満を抑える意図があった。

日本とぶつかった尖閣諸島の問題においても、このコミュニケーションの基本戦略を踏襲、当初は日本に対して強硬な姿勢を示し続けた。ところが、想定外だったことは国際世論が、中国の強硬姿勢に反発、結果、中国の資源外交は行き詰まり、中国企業の海外進出に海外からの反発を生み、中国自身が「実害」を被る。

今回の高速鉄道事故においても、中国のコミュニケーションの基本戦略は変わらなかった。

その目標設定は、あくまでも対外的な威信の確保であった。

とにかく、早く復旧、高速鉄道を始動させる事が対外的な威信の確保につながると判断、その基本戦略で動く。事故車両を埋めたのも、復旧を急ぐという脈絡からは理解できる。ところが、尖閣諸島問題と同じように、再び想定外の反発が起こる。尖閣諸島問題の時は国際世論だったが、今度は国内世論である。この想定外な展開に中国当局は翻弄される。温家宝首相が6日後とかなり遅れて現地入りした事が事態の進捗が想定外であった事を象徴している。

中国のコミュニケーションの基本方針は対外的な威信の確保である。

とにかく、早く再稼働する事が至上命題である。そのため、原因究明のプロセスを疎かにする。はじめは落雷によると発表、次に信号機故障したと修正、最後にはソフト設計のミスにより自動停止装置始動しなかったと説明が二転三転する。この説明の一貫性の無さが不信感を煽り、政府当局に対する世論の怒りを加速させる。

中国は攻めのコミュニケーションから守りのコミュニケーションへの戦略転換が求められる。

従来のような対外的的な威信の確保という基本路線では対応できない状況変化が起こっている。状況変化とは世界第二位の経済大国になることで海外の目が厳しさを増す。ますます大人の国として行動することが期待されて来る。国内も同じである。

経済発展は人々の意識を変える。政府に対してより透明性を求める声が大きくなってくる。政府活動の透明性への期待が高まって来る。また、マスメディアが変わってくる。今回の注目点は中国メデイアが引いていないことである。かなりひつこく当局を攻めている。さらには、ソーシャルメデイアが、当局の規制強化にも関わらず、その動きを強めている。(次回へ続く)

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2011年7月29日金曜日

なぜ成功する人は“パクリ”が上手いのか(コミュニケーション百景 第18回)

テレビ東京の番組「美の巨人たち」を見る。

ルネッサンスを代表する3名の芸術家、科学のダビンチ、情熱のミケランジェロ、そして調和のラファエロ。

中でもラファエロは天才的に優れた、”パクリ”の名人だったようだ。

ダビンチからは輪郭をぼやかす手法、ミケランジェロからは躍動的な肉体表現をパクる。

パクリは決して悪いことではない。

相手の優れたものを、一旦吸収して、それに自分の独創を入れ込むのが“パクリ”。

戦略コミュニケーションの世界では“パクリ力”がないと大成しない。

パクリとは様々な視点や発想に敏感に反応、それらと接することにより自分独創の視点、発想を生み出す力である。

真似とパクリは違う。

パクるためには意味付ける感度が問われる。

5分前に相手から聞いた視点に独自の意味付けを行い、新たな発想として別の相手に話すチカラである。

真似では独自の意味付けが無いため、もたない、相手に見透かされる。

自分はどうやってこのパクリ力なるものを鍛えてきたかと言うと、やはり、マスコミ、ジャーナリストとの継続的な対話である。

今までに国内外ほぼ2000人程のジャーナリストとの接点を持つ。

彼らとの長年のやり取りの中でパクリと云うチカラを培ってきた。

対話と言っても、どちらかと言うと格闘技である。マスコミvs広報 ・PRと云う構造の中での対話であるため、守る攻めるの戦いである。

どれだけ記者の人にこちらの視点、発想を打ち込み、納得してもらうかが勝負である。

相手も視点、発想のプロである。なかなか手強い。なまじっかな視点、発想ではあっという間に撃墜されてしまう。

対話がもたない。こちらのメッセージも届かない。

このような状況では、ほって置いても自ずと新たな視点、発想を生み出す意味付け力が備わってくる。

意味付け力を培う相手としてはジャーナリストに限らない、政治家、政策スタッフ、有識者など多様だが、マスコミのように攻める守るの構図がある方が圧倒的にパクリ力向上には役に立つ。

パクリの天才、ラファエロを最も研究したくなった。
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*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

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2011年7月14日木曜日

歴史上の偉人たちが“茶に興じた理由”(コミュニケーション百景 第17回)

「茶は暇つぶしやえせ教養主義になり易い、戦国時代の対決の世界を取り入れることによって、急にその重厚さを加えてくる」
と「敗者の条件」の中で著者会田雄次が語っている。

また

「実践活動の経験と洞察力を身につけた人間が、芸術の遥かに鋭い理解者になる」
と言い切り、信長、秀吉を芸術としての茶を進化させたと評価する。前に出版した「破壊者の流儀」の中で信長の茶について考えた。

信長はその非凡な実践活動の経験と洞察力を通じて、効果のある実践的なプロセスとして茶を完成させる。

利休はその信長のニーズに応えた。

リーダーたちの意識に働きかけ、動かすのが信長の茶である。信長のコミュニケーション力学の真骨頂のひとつ。

一方、より大衆に働きかけ、動かすのが秀吉の茶である。秀吉のコミュニケーション力学を垣間見る。

しかしながら、利休は秀吉のニーズに応えられず、結果は切腹。

ただ、重要な事は信長も秀吉も、実践的な活用と云う視点から茶に精力を注ぐ。

それと真逆なのが、信玄である。

信玄は京風文化にその精力をつぎ込む。

公家の歌づくりに修練、恋歌づくりではセミプロ並み。

この差が天下取りにどの程度、影響したかはわからないが、ひとつ重要なポイントは、何か事を成す事を決めた人間は自分の限られた能力を何処に集中させるかをよくよく真剣に考えることが重要であると云うこと。

趣味や教養も重要だが、敗者になりたくなければ、趣味や教養をあえて切り削いで行く覚悟も必要のようだ。

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2011年6月30日木曜日

菅総理は“〇〇”がお好き??(戦略コミュニケーションで斬る*第19回)

菅総理のコミュニケーションの特徴を一言で言うならば、

「奇策好き」である。

孫子の兵法に
「兵は詭道なり」
とある。

詭道とは人を騙し欺くことである。

能力があっても敵には無能を示し。遠くても敵には近くに見せたり、敵を騙し欺く事が戦いに勝つ鍵を握ると孫子の兵法は説いている。

菅総理は孫子も兵法に基づいてコミュニケーションを図っているのか、勘ぐりたくなる程に、奇策を連発する。

唐突な浜岡原発の停止、辞任発表で不信任決議を回避、自民党参院からの浜田議員一本釣り、脱原発で解散総選挙をほのめかす。

まさに、コミュニケーションの奇策の連発。

ところが、孫子の兵法には
「凡そ戦いは、正を以って合い、奇を以って勝つ」
と云う事が説かれている。

その意味するところは、戦いは先ず正々堂々と正攻法で攻める、そして奇策、奇襲によって勝つ。

言い換えれば奇策、奇襲だけでは勝てない事を強調している。

信長が桶狭間の戦いで奇襲によって今川義元を倒した話は有名。

これが、その後、過大評価され、日本軍の奇襲好き戦法につながる。

太平洋戦争では奇襲の連発で日本軍自らが墓穴を掘る事になる。

どうも菅総理のコミュニケーションは日本軍の轍を踏むことになりそうな雲行き。

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2011年6月17日金曜日

お知らせ:第16回コミュニケーション技術評価会

2011年6月25日フライシュマン・ヒラード・ジャパン(以下、FHJ)は「第16回コミュニケーション技術評価会」を開催致します。

これはコミュニケーションを技術として捉え、その向上を目的として弊社が年2回実施しているイベントです。

具体的にはFHJのグループ及びグループ企業(グループ:CCW、FHヘルスケア、SMC。グループ企業:ボックスグローバル・ジャパン、ブルーカレント・ジャパン)による半年の間に起きた代表的なケースの紹介と、ご来賓の方々との質疑応答で構成されています。

またこの場で頂いた様々なフィードバックは、FHJとして日々提供させて頂くコンサルティングやサービス開発等に活かしております。

コミュニケーション技術評価会 「3つのこだわり」:
年2回開催される本コミュニケーション技術評価会は今回で16回目をむかえます。


コミュニケーション技術評価会と呼ばれるには3つのこだわりがあります。

① 「コミュニケーションは1つの力である」:力である限り技術として認識する必要があります。ところが諸外国ではコミュニケーションは力であるという認識があることに対し、日本の企業及び日本人はコミュニケーションを余り意識したことがない。そういった面で日本は無防備であると言わざるを得ない。あえて技術という言葉を使うことにより、コミュニケーションを意識するということが1つのこだわりです。

② 右脳左脳に訴えかける:コミュニケーションの力学は技術論だけで片付けられるものではありません。同じ技術であれ、使う人間によって効果は全く変わってくる。つまり、人間的な要素が非常に強いということです。そのような人間的な要素を取り入れた上で、単に技術論に陥らない、右脳左脳両方を取り入れて考えていくことが重要であると考えます。

③ 共感を生む:見せ方にもこだわりがあります。人間は理屈では動かず
、共感によって動く。共感を生み出すために言葉だけではなく、映像、音楽など、あらゆる要素を用いて五感に響くメッセージを発信することが必要と考えています。
以上3つのこだわりを徹底すべく、本会を年2回実施することにより、コミュニケーションという技術を新しい方向に向けていくことを目的としています。


極端にいうと、上記3つのこだわりを用い、本会を1つの映画を見たような感覚を参加された皆様に与えること。あるいは感動、共感を醸成することが非常に重要なポイントとなっています。

そして、今回初めてその一部分を記録し、後日、社外の皆様に向けて公開することになりました。

詳細について、後日お知らせ致します。ご期待下さい!

2011年6月10日金曜日

「国益」に繋がるメッセージ発信~先代ローマ教皇が持つ、相手視点に立つ強さ~(コミュニケーション百景 第16回)

先代のローマ教皇パウロ2世は、教皇として始めてイスラム社会に対して十字軍のイスラム世界への遠征を過去の過ちとして自ら認めた。

このメッセージはキリスト教世界とイスラム教世界の間で大きな障壁となっていた「歴史認識」のギャップを一気に縮めた。

これによりローマ教皇とイスラム教世界との間には新たな関係が生まれ、それを軸にパウロ2世は自らが推奨する平和外交をより効果的に展開することができた。

相手視点に立てるということは“強さ”である。自己視点に立ってしまうということは“弱さ”である。

日本人も日本の国もメッセージ免疫性低下の無自覚症候群に陥いている。その意味での“弱さ”が目立つ。

一方で、繊細なメッセージでも知覚できる能力を日本人や日本は持っている。

本来、日本人は相手視点に立つことに秀でた“気配り”の伝統的なメッセージ感度をもっているのだ。

日本人が育んできたきめ細かなメッセージ感度は多様性のある現実にうまく適応することを今までも可能にしてきた。

コミュニケーションという視点に立った日本的な“強さ”の創造が今、強く求められている。

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2011年6月8日水曜日

「国益」に繋がるメッセージ発信 ~ドイツはいかにしてEUでの信頼を取り戻したのか~(コミュニケーション百景 第15回)

日本とドイツは第二次大戦の敗戦国として近隣諸国との関係に苦労した国である。

日本が戦後60年経ってもまだ、中国、韓国の国々と関係がギクシャクしているのに対してドイツは今やEUの中心国として位置づけられている。

EUでの強い存在感を背景にイラク戦争への反対表明など超大国米国に対して一定の距離を置くことができる外交を展開している。

ドイツはかって侵略をしたフランスやポーランドとの関係を戦後一早く修復した。

対独戦争で最も大きな被害を受けたといわれるロシアとも関係を強化、それを背景にロシアとEUとをつなぐ役割を積極的に担っている。

ドイツはロシアとEUとをつなぐという役割を通じてEU内での独自の立場を構築するとともに、米国とも対等な立場を保つなどドイツの「国益」に直結した外交を実現してきた。

ドイツの外交力の要は相手視点に立ったメッセージ発信である。

2005年4月16日、17日付仏フィガロ紙にワルシャワのユダヤ人強制居住地区跡の慰霊碑の前でひざまずいて謝罪したブラント独元首相と靖国神社参拝を続ける小泉首相とを対比した記事が掲載された。

ドイツと日本の戦後の隣国への対応の違いを揶揄したものだが、ドイツの戦後の復興は単に経済的なものだけではない。

外交の面でも過去に対する真摯な反省という一貫したメッセージを発信し続けることによって、EUの中心国としての確たる信頼を醸成してきている。
 
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2011年6月6日月曜日

メッセージ免疫性低下の無自覚症候群(戦略コミュニケーションで斬る*第18回)

最近朝の挨拶しない人が増えている。

こちらから挨拶をして始めてびっくりした様に静かに、ちいさく挨拶を返す。

悪気はない。気がつかないだけである。

エレベーターの扉が開くと周りに対して“気配り”をせずに無神経に乗る人、出るひとが増えている。

狭い歩道ですれ違うとき、避ける素振りもせずそのまま闊歩してくる人が結構いる。

周りに対する不注意というよりも周りを“意識していない”周りが“見えていない”と言った方がよい。

周りに対して“気を配る”とはもともと“用心”のためである。

よくアメリカ人は愛想が良いと言われる。見知らぬ人に対しても結構、親しそうに“ハロー”と挨拶をする。

これは基本的に見知らぬ相手への用心からである。

こちらからメッセージを発信し、相手を探る。挨拶だけではない。

言葉に出さなくても人は絶えずメッセージを発信している。

彼女が不機嫌そうであれば、機嫌が直るまで寄り付かないほうが良い。

上司が上機嫌であれば、承認を取るチャンスである。

相手の発信しているメッセージを絶えず読み解くことによって人は相手に対するアプローチを決めている。

「触らぬ神に祟りなし」である。

メッセージを読み解く能力は知覚機能の中でも最も重要な能力である。

“危険”に対する防御能力であると同時に“機会”をものにする攻撃能力でもある。

相手のメッセージを読み取れるかどうかは相手の立場に立てるかどうかの問題である。

人間の社会で対応力とは相手視点に立てるかの能力の問題である。

自己視点でしか物事が見えない人が増えている。

相手の視点で考えることができないという事は相手のメッセージに対して無防備であると言うことである。

メッセージに対する免疫性がない。

相手のメッセージに踊らされる。

メッセージ免疫性低下の無自覚症候群が今確かに日本人の間で広がっている。

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2011年6月3日金曜日

これからの外交、”間接話法”を利用せよ(戦略コミュニケーションで斬る*第17回)

外交は国益を守るための戦略コミュニケーションである。

狭義の外交は各国の外交当局間の外交折衝である。

これは当事者間の直接話法で、各国がその利害を超える事が難しく、強要か譲歩の中で落とし所を模索、妥協点を見つけるプロセスである。

この限界を乗り越える方法として相手の国の世論を味方につけ、その世論をテコに相手国に譲歩を迫る間接話法がある。

中国が北京へのオリンピックの誘致に動き出した際は、米国は天安門事件の絡みから反対の姿勢を貫いていた。

中国はグローバルネットワークを持つ米国のPRファームを採用、米国の世論の味方化をはかる。

結果、ホワイトハウスから北京へのオリンピック誘致に関しては米国は中立な立場をとる旨を発表するまでに持ち込む事に成功する。

これからはますます、間接話法を使った総合外交の時代がくる。

世界が多極化する中で、今後は相手国の世論だけでなく、世界世論を味方につける事が重要になる。その鍵は国際会議である。

しかも、国主導ではない、民間主導のものである。良い例がダボス会議である。

もはや国が主導するサミットでは国際世論をつくる事は難しくなってきている。

民間主導の国際会議には各国首脳だけではない、経済人、学者、文化人、NGOなどが多くの集まる。

ここで醸成された考え方が世界世論を形成する。

これからの総合外交は民主導の国際会議において日本の声(Voice)を確立して行くか、それによって世界世論世論を味方につけるかであう。

更には、日本自らが主催する国際会議をつくる事が、日本の世界における立ち位置をつくるために不可欠である。

フクシマ会議は世界の世論を味方につけるだけでなく、それを引張って行く日本の総合外交の柱になり得る。
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フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年6月1日水曜日

【メディア情報】本日6月1日発売の宣伝会議に寄稿させて頂きました。

本日6月1日発売の宣伝会議に寄稿させて頂きました。



巻頭特集「近所の評判から風評被害まで その本質を考える」にて、
戦略コミュニケーションの視点から、3.11以降いかにして日本への信頼を取り戻すか、
海外からの風評被害をいかに克服するかについて考察しました。

是非、ご一読下さい。

巻頭特集/近所の評判から風評被害までその本質を考える 
風評被害のメカニズム

■戦略コミュニケーションの視点 
日本への信頼を取り戻せ 
海外からの風評被害をどう克服するか

-.風評被害は「三つ目のクライシス」
-.海外メディアが過剰反応する背景
-.メッセージのない情報発信はリスク
-.「ブランド構築」視点での風評被害対応は逆効果
-.海外から注目を集めるための「逆転の発想」
-.コミュニケーションを経営戦力にする

(宣伝会議 HP) http://ec.sendenkaigi.com/hanbai/magazine/sendenkaigi/#article_01

2011年5月30日月曜日

多くの日本企業に欠落している、“ある機能”(戦略コミュニケーションで斬る*第16回)

トヨタのリコール、東電の原発事故、ソニーの個人情報漏洩などのクライシス対応を見ていると、あることに気付く。

多くの日本の企業には「コミュニケーション」と云う括りの機能や組織がない。

ステークホルダーと世間(Public)に対してコミュニケーションをはかり、関係性(Relations)を構築すると云う発想で組織づくりがなされていない。

コミュニケーションとなると大抵は広報部と云うことになるが、日本企業の広報が果たしている機能は企業のコミュニケーションという視点から考えると相当に限定的である。

その中心はマスコミ対応である。

企業によっては社内広報の機能を持っているところもある。

また、ネット時代を迎えて、ウェブの管理などの業務も加わるようになった。

しかしながら、企業が行っているコミュニケーションの全体から見れば、本当に一部である。

グローバルを目指す日本企業にこそ、コミュニケーションを間接部門、コストセンターとして考えるのではなく、有事の際に企業を守る経営戦力として位置付ける発想が必要である。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月27日金曜日

Public Relationsこそ米・ホンダ成功のカギ(戦略コミュニケーションの温故知新* 第12回)

(前回からの続き)次は、アメリカの部品メーカーである。

自動車産業は組み立て産業である。数万点にも及ぶ部品を組み立てている。

現地生産となると今まで取引の無かったアメリカの部品メーカーを開拓することが必要となる。

しかしながら、これは簡単な話ではない。

これも従業員と同じようにホンダ生産方式とホンダ哲学を十分理解し、それに対応出来るだけの生産ラインと労働力の質が米国の部品メーカー側に求められる。

出来るだけアメリカの部品メーカーの採用をはかるが、どうしてもダメな場合は、日本で取引している日本の部品メーカーに米国への進出をお願いすることになる 。

これはこれでいろいろと新たな問題を想起させる。
米国の部品産業を破壊するなどと言って日本の部品メーカーの米国進出への反対運動が起こる。

一方、海外進出に慣れない部品メーカーの日本人駐在員やその家族が大幅に増えることに対する地域社会との軋轢が増えてくる。

いずれにせよ、モノを売ることからモノをつくることになるとより多くのステークホルダーとの関係性が複雑に交差、そこを十分に手当てしないと現地化戦略は間違いなく頓挫する事態に当時のホンダは直面していた。

いずれにせよ、ホンダのアメリカでの現地化戦略を成功させるためには、その実現に資する形で多様化するステークホルダーとの関係性を戦略的に構築して行く事が大きな課題になっていた。

ホンダがアメリカでPublic Relations部門を立ち上げるに至る背景がここにある。

*「戦略コミュニケーションの温故知新」。このシリーズでは一度、原点回帰という意味で私のコミュニケーションの系譜を振り返り、整理し、そこから新たな発想を得ることが狙いです。コミュニケーションの妙なるところが伝えられれば幸いだと考えます。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月25日水曜日

メッセージ発信の“レーダー機能”を活用せよ(戦略コミュニケーションで斬る*第15回)

メッセージ発信は相手に何かを伝えるだけではない、

メッセージを発信することによって相手の反応を読み、

その狙いや動きを察知することも重要な目的である。

そして、そのメッセージ発信の“レーダー機能”が今後はますます重要になる。

相手に何かを伝える前に、相手を知る事がコミュニケーションの原則。

ところが、今までは黙って観察するだけで相手を知ることができたが、価値観の多様化、世界の多角化、意識の流動化によって観察だけでは、相手を知る事が難しくなってきている。

いわば「肉を切らせて、骨を断つ」発想が求められる。

更に、コミュニケーションは「後だしジャンケン」が基本であるという事も忘れてはならない。

相手の手の内を知らずにこちらから発信するのは危険と云う発想をする。

しかしこれからは、あえてこちらからメッセージを発信するリスクを冒してでも、相手の真意を探る事が必要となる状況が増えてくる。

企業の最前線、外交、安全保障の場では、今後レーダーのように色々なメッセージと云う電波を発信、その反応を読み相手の狙い、動きを察知する機能が必要となる。
*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月23日月曜日

有為な人材とは何か(戦略コミュニケーションで斬る*第14回)

今回は有為な人材とは何かを考えてみたい。

以下、5月22日付の日経新聞、風見鶏の中で取り扱われた文章である。

国家の危機に有為な人材を登用するのは当然。 
官房副長官に就いた後、萎縮していた官僚たちを「俺が責任をとる」と言って奮起させたのは、仙谷氏だ。 
人事の評価を一概には決めつけられないが、それにしても「他に人はいないのか」と言いたくなってしまう。(2011年5月22日日経新聞2面 風見鶏より抜粋)

有為な人材とは何かを考えてみる。

大辞林をによると、有為とは「形や状態をつくる事ができる」と云う意味合いであるそうだ。

すると、それができる人材が有為な人材ということになる。

具体的な状態をつくるためには、人の世である限り、自分以外の周りの人々がその状態をつくるために行動を取って貰わないと実現できない。

言い換えると有為な人材とは人々を行動させる人材のことである。

「俺が責任をとる」と云う一言が官僚を奮起させ、行動させる。

しかし、それは言葉だけの問題ではない。

人が言葉からメッセージを受け取る比率は35%と言われている。残りの65%は非言語による。

その非言語の殆どがその人の覚悟、つまり意志のあり方によって左右される。

覚悟する事ができるか否かがメッセージ性を決める。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月20日金曜日

コミュニケーションの正攻法、「根回し」のススメ(戦略コミュニケーションで斬る*第13回)

「根回し」と云う言葉がある。

時々によって良くも悪くも使われる。

会社生活の中ではよく「役員会の前に役員メンバーとの根回しをしっかりやれ」とか日本のビジネスマンにとっては必要不可欠なスキルとして扱われることもある。

一方、根回しによるコンセンサス重視のため、海外では日本の意思決定の遅さの元凶ととらえられることもある。

この「根回し」と云う言葉、コミュニケーションの視点から考えると結構「活けた」手法である。

コミュニケーションにとって「メッセージの一貫性」と「サプライズ発信の最小化」は基本中の基本である。

この2つができていないと信頼醸成が出来ず、コミュニケーションそのものが毀損する。

サプライズ発信を使う政治家として小泉純一郎さんがいる。

サプライズで支持を得るというやり方は基本的にはコミュニケーションの王道ではない。

一種の奇襲戦法である。

奇襲と云うのは勝敗を決めるような場合に有効な手法である。

孫子の兵法でも「兵とは危道なり」と言って、敵の想定外を攻める奇襲が勝敗の鍵を握ると主張する。

勝敗の白黒をつけるような選挙のような戦うコミュニケーションではサプライズと云う奇襲戦法は効果はある。

しかしながら、サプライズ発信はある程度コミュニケーションの天才的なセンスが求められる。誰でもができるわけではない。

実際の戦いでも奇襲は天才でなければ使え得ぬ技と言われている。奇襲で平家を滅亡に追いやった源義経然りである。

やはり天才で無い普通のリーダーはサプライズを使わない正攻法で攻めるべきである。

その際に役に立つのが「 根回し」という日本固有の発想である。

方針や政策について関係者への根回しをしっかりやる事によって、関係者の間でのサプライズを最小限に抑える。

結果、反動を和らげ、方針や政策の実現性を高める事ができると同時にメッセージの一貫性を保ち易くなる。

根回しのコミュニケーションレバレッジが効いてくる。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月18日水曜日

今、目の前にあるチャンス(戦略コミュニケーションで斬る*第12回)

世界が多極化する中で、国の発信力が益々問われて来る。

一国の発信力はこれからますます弱まって来るのが世界の趨勢である。

アメリカや中国と言えども、世界世論の流れには抗えなくなって来ている。

今後、国の発信力を上げて行く装置やプラットフォームが求められて来る。

国の世界への発信を拡声する装置の一つに国際会議がある。

大きく2つに分かれる。ダボス会議のようなNGOなどが主催する会議とG8サミットのように国家レベルで主催される会議である。

いずれにせよ、国際会議という拡声器を利用、世界世論をリードする事が国の発信力に必要となる。

その鍵は課題設定力である。

世界の課題をいち早く先取り、イニシアティブをとる。

その課題解決のために自国の知見、経験、知識を供出、他の国々の支持、協力を取り付けながら世界世論を引っ張っていく。

国益と世界益を一致させる広義の安全保障につながる。

フクシマに象徴される世界の課題を設定できるチャンスが、今、目の前にある。

従来の国際会議だけでなく、日本自からイニシアティブを取るフクシマ会議の開催は日本の今後の発信力を強める装置として真剣に考える価値あり。

タイミングは今年しかない。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月16日月曜日

有事におけるプレスリリースの役割(戦略コミュニケーションで斬る*第11回)

本来、プレスリリースは企業の商品、活動などを一般に知らしめるための方法である。

リリースをマスコミに配り、企業の商品や活動についての記事をなるべく多く書いて貰うことを主眼としている。

しかしながら、これは平時の時もの話。

有事になると状況が変わってくる。

有事は企業は責められる立場。

マスコミが企業はの責任として攻めて来る視点は以下の三つである。
  1. クライシスに対応すべく、今、何をしているのか。
  2. クライシスに対応すべく、これから何をするのか。
  3. クライシスが起こってから今までに何をして来たのか、更には、クライシスが起こる前に、それを未然に防ぐために何をして来たのか。
この3つの項目でマスコミは攻めて来る。

難関は3である。すでに過去のこと。これから見繕うことできない。

企業への批判、3がだいたい震源地。

よって、平時の時からアリバイ工作が必要。

クライシスが起こったあとでも、しかるべき対応をしていると云う証拠をプレスリリースという形で残すこと大変重要。

時には十年前ににまで遡ってマスコミは攻撃して来る。

アリバイ工作にプレスリリース重要。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月13日金曜日

仏教は戦略コミュニケーションに通ずる(コミュニケーション百景 第14回)

今回のコミュニケーション百景は仏教の話から。「仏教と戦略コミュニケーション?」と思う事なく、しばしお付き合い願いたい。

無我、無常とは仏教における「空」を解くための概念。「空」を理解する事は難しい。

理解とはあくまでも左脳的把握を意味する。「空」はどうも右脳的把握が必要。

「空」とは何事にもこだわらない融通無碍で自由な境地ではと今のところ考えている。

そのためには2つのことを体感、体得、自覚することが必要。それが無我と無常。

無我とは自分という存在は周りとの関係性の中で自覚されるものという考え方。

「お陰様で」、「ご縁を大切に」、「周りから生かされている」などの表現は、この無我の発想から来る。

東洋的な考え方。無常は自分を自覚させている関係性が絶えず変わる中で、関係性の呪縛を解き、どう融通無碍に自分を自覚出来るかと云うこと。

これが出来ると「真の自由を得る」と仏教では考える。

仏教論はここまで。戦略コミュニケーションの発想からは3つの事を認識することが重要。
  1. 自己の立ち位置は周りとの関係性の中で確立する。
  2. しかし、その関係性は絶えず変化、関係性の変化に応じて自己の立ち位置を不断に確立して行くことが必要である。
  3. 関係性の変化への対応だけではなく、自らも関係性を変化させて行く戦略性が重要である。結果、戦略的な立ち位置がつくれる。
この3つの戦略コミュニケーションの発想、国や企業の立ち位置をつくる時も肝要。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月11日水曜日

飲み会の企画に学ぶ戦略コミュニケーションの要=○○力(コミュニケーション百景 第13回)

略コミュニケーションの要となるのは想像力である。

戦略コミュニケーションの視点から考える想像力には二種類ある。

想定したことを実現するために想像する。これ平時の想像力。

一週間後に会社の飲み会をやること想定、そこで何が起こるかイメージする。

場所は六本木、洒落たバーカウンターがある、飲みものはワイン、飲み放題、食べ物は洋風で軽く、立食で行く、などなどイメージ化。

このイメージされた事を実現するにはどうする。

そこから逆算、今からどの様な道筋で行くか、どの様な課題あるか、誰に相談するか、協力してもらうか、参加してもらうかなどなどを想像する。

逆に想定外の事が起こってしまった時に想像する。これ有事の想像力。

飲み会始まる直前に、仕事の関係で半分以上が参加できず。

これから何をしなければならないのかイメージする。

やるかやらないのか、準備された食事どうする、参加費激減支払いどうする、参加している人々への対応は、別の会に衣替えするのかなどなどイメージ化。

このイメージされた問題をこれからどの様な道筋で解決するのか、どの様な問題あるか、誰に相談するか、協力してもらうか、参加してもらうかなどなどを想像する。

有事の想像力が難しいのは、将来を想定して、逆算できない事。

まず、何を想定しなければならないかから始まる。

ここが難しい。将来仮説を類推せざるを得ない。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
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2011年5月9日月曜日

福沢諭吉「独立自尊」の精神に学ぶコミュニケーション(コミュニケーション百景 第12回)

(からの続き)「学問のすすめ」の中で福沢諭吉は「惑溺」した精神を粉砕するために「実学」を通じてより「強靭な主体的精神」を形成し、近代社会の「関係性のジャングル」を生き抜くことの必要性を説く。

「強靭な主体的精神」を形成するとは目前の課題を乗り越えるための価値判断を不断に流動する心構えを持つことであると考える。

言い換えれば「自ら自己の視点を流動化する」力をもつということである。

福沢諭吉は、この「強靭な主体的精神」を「独立自尊」、「独立の気象」と呼んだ。

そのためには価値判断を絶対化せず、相対的に見ること、そして知性の試行錯誤を通じて事物そのものではなく、その「働き」、「他との関係性」、「機能」を見る実験的精神の重要性を強調、物理学を学問の「範型」とした。

福沢諭吉曰く。
「東洋になきものは、有形に於いて数理学と、無形に於いて独立心と此の二点である」
更に、曰く。
「物の貴きに非ず、其働きの貴きなり」
「凡そ世の事物は試みざれば進むものなし」
更に、更に、曰く。
「物ありて然る後に倫あるなり、倫ありて然る後に物を生ずるに非ず。憶断を以って先ず物の倫を説き、其倫に由て物理を害する勿れ」
そして福沢諭吉は「強靭な主体的精神」を形成するための要として自己の偏執を不断に超越する精神的余裕を確保することを主張する。

福沢諭吉、曰く。
「浮世を軽く認めて人間万事を一時の戯(たわむれ)と見做し、其戯(たわむれ)を
本気に勤めてただに怠らざるのみか、真実熱心の極に達しながら、さて万一の時に
臨んでは本来唯之浮世の戯(たわむれ)なりと悟り、熱心、冷却して方向を一転し、
更に第二の戯(たわむれ)を戯(たわむ)るべし。之を人生大自在の安心法と称す」(福翁百話)
現代風に言い換えれば、「人生をゲーム感覚(戯れ)と捉え、ひとつひとつのゲームを真実熱心に本気で勤める」と言ったところか。

このように「真面目な人生」と「戯れの人生」と云う相反するものを同じ精神の器に同居させることが、かえって物事を相対的に捉える精神的余裕を確保することになると福沢諭吉は説く。そしてそれが真の独立自尊の精神があると唱える。

コミュニケーションの世界でも目前の課題解決に取り組む際「自ら自己の視点を流動化する」力をもつということは重要である。

コミュニケーションの世界では「視点の凝集化」、「意識の化石化」、そして「視点の絶対化」は自滅を意味する。

コミュニケーション実践の鍵は自らの「思い込みの呪縛」に捉われない「相対性理論」の習得にある。

将に「独立自尊」の精神である。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月6日金曜日

福沢諭吉”12の「ますます」”に学ぶコミュニケーション(コミュニケーション百景 第11回)

(からの続き)著作「民情一新」において福沢諭吉は語る。
「西洋諸国の文明開化は徳教にもあらず、文学にもあらず、又理論にも在らざるなり。
然らば則ち何処に求めて可ならん。余を以って之を見れば其れ人民交通の便に在りと
云はざるを得ず。」(民情一新)
福沢諭吉は近代社会においては精神的、物質的にも未曾有の緊密な相互依存関係が出現、社会の不特定多数との複層的な「関係性」の形成が物質的豊かさを実現、文明の進歩を加速化することを洞察していた。

福沢諭吉が洞察した近代社会の方向性とはどんなものであったのかを福沢諭吉の12の「ますます」という形でまとめてみた。
1.様々な社会関係の固定性がますます崩れてくる社会
2.人間相互の関係が一刻も固定せずますます不断に流動する社会
3.人間相互の交渉関係がますます複雑多様になる社会
4.そのため人間の交渉様式がますます複雑多様になる社会
5.環境や状況の変化がますます速くなる社会
6.精神は現在の状況にますます安住することができない社会
7.不断にますます目覚めていなければならない社会
8.価値基準の固定性が失われ判断基準がますます多元的となる社会、
9.それらの多元的価値の間に善悪軽重の判断を下すことがますます困難となる社会
10.伝統や習慣に代わってますます知性の占める役割が大きくなる社会
11.知性の試行錯誤による活動がますます積極的に必要とされる社会
12.不断の活動と緊張がますます増える社会
どうも我々が住む近代社会とは大変な世界であるようだ。
決して「楽」な世界ではない。
差し詰め、近代社会とは「関係性のジャングル」の時代と謂える。

福沢諭吉は、この「関係性のジャングル」の中では「主体性に乏しい精神」をもった者がまず、餌食になることを示唆する。

「主体性に乏しい精神」とはひとつの事柄を金科玉条の如く考え、特殊的状況に根ざした視点に捉われる精神であると定義する。

「主体性に乏しい精神」によって具体的状況を分析する煩雑さから逃れようとする態度を福沢諭吉は痛烈に批判する。

それは「視点の凝集化」であり、「意識の化石化」であり、「視点の絶対化」である。福沢諭吉はこのことを忌み嫌い「惑溺」した精神と表現する。

福沢諭吉曰く。
「広く日本の世事に就て之を視察するに、道徳に凝る者あり、才智に凝る者あり、
政治に凝る者あり、宗旨に凝る者あり、教育に凝る者あり、商売に凝る者ありて、
其凝り固まるの極度に至りては、他の運動を許さずして自身も亦自由ならず」
福沢諭吉は「凝る」ことを嫌った。

このような野蛮な「関係性のジャングル」をどう生き抜くかを指南した福沢諭吉の著作があの有名な「学問のすすめ」である。

日本で初めてのベストセラーである。当時の殆どの日本人が手にしたと謂われている。

それだけ、時代の要請に合致した内容のものであった。(つづく)

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

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田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月4日水曜日

福沢諭吉「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」に学ぶコミュニケーション(コミュニケーション百景 第10回)

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」

福沢諭吉の「学問のすすめ」の有名な冒頭の一節である。

この一節は単に人間すべて平等ということを謳っている訳ではない。

文明の進化、もっと端的に言うと文明の進化を支える物質的豊かさを実現する新しい「関係性」のあり方について言及したものである。

夏目漱石は近代社会の本質を「関係性」の視点から捉えた数少ない明治人のひとりであったが、もう一人、「関係性」という尺度から近代日本の本質を洞察した明治人が福沢諭吉であった。

夏目漱石がこの「関係性」を「呪縛」と捉え、“煩わしいもの”として考えたのに対して、福沢諭吉はより積極的な視点から考えた。

福沢諭吉はお馴染みの一万円札の顔である。

なぜ福沢諭吉が一万円札の表紙を飾ったかという背景については詳しくは知らないが、差し詰め、
「文明男子の目的は銭にある」
と表立って言い切って憚らなかった福沢諭吉の姿勢からきたものという推測もつく。

「文明男子の目的は銭にある」などは今時十分納得のいくことであり、昨今、「ホリエモン」騒動で七転八倒している自民党長老議員や放送業界、実業界のドン達などは福沢諭吉の爪の垢でも煎じて飲ませれば良い。

近代社会の最も大きな特徴は物質的、経済的豊かさを実現したことである。

その豊かさによって文明の進歩が支えられている。

「文明男子の目的は銭にある」という福沢諭吉の言葉は、このような文脈の中で語られたもので、文明男子たる者「文明進歩」の尖兵たれと発破をかけているのである。

近代とそれ以前の社会とを区別する最も大きな違いは物質的、経済的豊かさの飛躍的向上である。

これはふたつの社会的関係性の変化によってもたらされた。

「分業の関係性」と「競争の関係性」である。

この社会的関係性の変化が大幅な生産性の飛躍につながることを最初に指摘したのが、「国富論」で有名な経済学の祖であるアダム・スミスである。

「国富論」の中で、アダム・スミスは「分業」という「関係性」が生まれたことによって従来はギルドという職人組合によって特定の職人に独占されていた様々な商品の製造プロセスに職人でない普通の人でも参加できるようになり、製造の生産性を大幅に引き上げた。

一方、それらの商品が取引される「市場」は「自由競争」という「競争の関係性」が導入されたことによって経済資源配分の最適化が実現することを説いた。

この2つの「関係性」が起動するためには従来の封建的身分制度からの開放が必要であり、人々はその身分や出自にかかわらず、自ら社会との「関係性」を積極的に構築する時代に入ったことを意味した。

その「関係性」がヒト、モノ、カネ、情報という資源を動かし、様々な経済活動を生み出し物質的な豊かさを実現した。

そして、ヒト、モノ、カネ、情報という事業資源をより有効的に囲い込む「関係性」を創り上げた者が市場における競争関係で他を駆逐するといった世界が出現した。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」
という一節は、このような時代認識の中で理解されるものである。(つづく)

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka