2023年11月2日木曜日

「立ち位置の原体験」“ホンダ“という神様が降りてきた!

昔話をします。誰しもいろいろな原体験を持っています。
自分自身もさまざまな原点となる経験を経て今日までに至っています。多くある原体験の中で自分が初めて「人間関係の原理・原則」を思い知らされた原点があります。

6歳の時に当時アフリカに南ローデシアという国がありました。今のジンバブエという国です。親の仕事の関係で日本人として初めて親子3人で移り住みました。当時の南ローデシアは英国の自治領として白人国家を形成しおり白豪主義を実践していました。白豪主義とは一種の人種差別政策で白人はホワイト、それ以外の人種はカラード(色つき)と差別され、ホワイト専用のレストラン、トイレ、居住区、学校などカラードとは別の生活空間が設定されていました。当然ながら、肌の色からすると日本人はカラードです。ところが、幸か不幸か日本人だけは名誉白人と認定されました。日本との国交が樹立されたことが背景にあります。

肌の色は黄色です、でも名誉白人だと明記したプラカードを肩からかけているわけでもないので、白人のトイレに入れば追い出される、レストランは入れてくれない。住む場所が見つからないなどなどの事態に見舞われました。学校は白人の学校しか存在せず、初めて登校したときは、校長先生の部屋で親同伴で挨拶していると部屋の大きな窓いっぱいに、白人の子供達の顔で埋め尽くされました。彼らにとっては一大事です。黄色い奴が入校してきたということで大騒ぎです。教室に入っても無視されるか、質問攻めです。英語もわからず、唯一、覚えた "I am Japanese." Japan自体を子供達は知らないため役に立ちません。Identity Crisisです。6歳の子供には重すぎます。地獄の一丁目にきてしまったのではと慄いた記憶があります。

ところが、「捨てる神あれば、拾う神あり」です。数ヶ月経つとホンダという名前の「神様」が降りてきました。当時の南ローデシアではオートバイのモーターレースが高い人気を誇っていました。当時の世界チャンピオンだったのがJim Redmanという南ローデシア人で国の英雄でした。当時ホンダのマシーンで世界を席巻していました。ホンダのチームが南ローデシアに転戦してくると、唯一の日本人家族ということでピットに呼ばれます。そこでJimと握手したり、写真を撮ったり、サインをもらったり、夢のような世界です。そこで得た獲物を翌日、学校に持って行きました。教室の皆んなに見せつけるためです。その際は、見せるだけでなく、皆んなの分も今度Jimが転戦してきた時に貰ってくるなどのリップサービスなどはしたと思います。

この行為が学校での環境を大きく変えました。

周りの子供達の態度が急変します。今まで「変な黄色い野郎」としか見られていなかったのが、「こいつ、英雄のJimを知っている、更にはJapanという国はホンダのバイクを作っている凄い国、こいつはそこから来た」と見られるようになりました。見られ方が変わった、立ち位置が変わったのです。それだけで地獄から天国に導かれた感覚です。

南ローデシアにはそのご6年ほど滞在しましたが、子供心に絶えず立ち位置の戦略を持っていました。

「クラスで必ず3番手に見られる」工夫です。そのKPI(評価軸)は同じクラスの女の子たちのBirthday Partyの日に彼女たちの自宅に呼ばれるかどうかです。通常、男の子からは3人選ばれてPartyに参加できるという不文律のルールがあり、そこに選ばれるかどうかがクラスの中の男子生徒の立ち位置が決まります。 

さすがに、白人の世界ですから一番手を狙うのは無理です。さらに、2番手は通常、一番手の白人の子供への対抗馬として、当然ながら白人が入ります。すると日本人にとっての狙い目は3番手をキープすることです。すでに、ホンダ、Jim Redmanのブランドは手に入れていたのですが、それに加え、「算数」を活用しました。当時、一般的に海外に滞在する多くの日本人子女は数学や算数が強いと言われていました、

多分、「九九」を習得する時期が日本人は早いことが背景です。ご多分に漏れず、自分もクラスの中では算数が得意で、それをクラスの子供達に教えるという立ち位置を確保することができました。

南ローデシアでの経験は自分に人間関係の原理原則は何かを体験させてくれました。今日に至るまで、「自分がどう相手から、周りから見られているか」を絶えず意識します。

更には「相手や周りにどう役に立つか」を考えます。「役に立つ」と見られるか、「役に立たない」と見られるかで天国に登るか地獄に落とされるかです。

社会的動物と宿命づけられている人間にとっては周りの「役に立つ」ことが立ち位置をつくる上での鍵です。自分は「どこで役に立つのか、何を持って貢献するのか」自問自答、行動で示すことが大事です。