2011年5月30日月曜日

多くの日本企業に欠落している、“ある機能”(戦略コミュニケーションで斬る*第16回)

トヨタのリコール、東電の原発事故、ソニーの個人情報漏洩などのクライシス対応を見ていると、あることに気付く。

多くの日本の企業には「コミュニケーション」と云う括りの機能や組織がない。

ステークホルダーと世間(Public)に対してコミュニケーションをはかり、関係性(Relations)を構築すると云う発想で組織づくりがなされていない。

コミュニケーションとなると大抵は広報部と云うことになるが、日本企業の広報が果たしている機能は企業のコミュニケーションという視点から考えると相当に限定的である。

その中心はマスコミ対応である。

企業によっては社内広報の機能を持っているところもある。

また、ネット時代を迎えて、ウェブの管理などの業務も加わるようになった。

しかしながら、企業が行っているコミュニケーションの全体から見れば、本当に一部である。

グローバルを目指す日本企業にこそ、コミュニケーションを間接部門、コストセンターとして考えるのではなく、有事の際に企業を守る経営戦力として位置付ける発想が必要である。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月27日金曜日

Public Relationsこそ米・ホンダ成功のカギ(戦略コミュニケーションの温故知新* 第12回)

(前回からの続き)次は、アメリカの部品メーカーである。

自動車産業は組み立て産業である。数万点にも及ぶ部品を組み立てている。

現地生産となると今まで取引の無かったアメリカの部品メーカーを開拓することが必要となる。

しかしながら、これは簡単な話ではない。

これも従業員と同じようにホンダ生産方式とホンダ哲学を十分理解し、それに対応出来るだけの生産ラインと労働力の質が米国の部品メーカー側に求められる。

出来るだけアメリカの部品メーカーの採用をはかるが、どうしてもダメな場合は、日本で取引している日本の部品メーカーに米国への進出をお願いすることになる 。

これはこれでいろいろと新たな問題を想起させる。
米国の部品産業を破壊するなどと言って日本の部品メーカーの米国進出への反対運動が起こる。

一方、海外進出に慣れない部品メーカーの日本人駐在員やその家族が大幅に増えることに対する地域社会との軋轢が増えてくる。

いずれにせよ、モノを売ることからモノをつくることになるとより多くのステークホルダーとの関係性が複雑に交差、そこを十分に手当てしないと現地化戦略は間違いなく頓挫する事態に当時のホンダは直面していた。

いずれにせよ、ホンダのアメリカでの現地化戦略を成功させるためには、その実現に資する形で多様化するステークホルダーとの関係性を戦略的に構築して行く事が大きな課題になっていた。

ホンダがアメリカでPublic Relations部門を立ち上げるに至る背景がここにある。

*「戦略コミュニケーションの温故知新」。このシリーズでは一度、原点回帰という意味で私のコミュニケーションの系譜を振り返り、整理し、そこから新たな発想を得ることが狙いです。コミュニケーションの妙なるところが伝えられれば幸いだと考えます。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月25日水曜日

メッセージ発信の“レーダー機能”を活用せよ(戦略コミュニケーションで斬る*第15回)

メッセージ発信は相手に何かを伝えるだけではない、

メッセージを発信することによって相手の反応を読み、

その狙いや動きを察知することも重要な目的である。

そして、そのメッセージ発信の“レーダー機能”が今後はますます重要になる。

相手に何かを伝える前に、相手を知る事がコミュニケーションの原則。

ところが、今までは黙って観察するだけで相手を知ることができたが、価値観の多様化、世界の多角化、意識の流動化によって観察だけでは、相手を知る事が難しくなってきている。

いわば「肉を切らせて、骨を断つ」発想が求められる。

更に、コミュニケーションは「後だしジャンケン」が基本であるという事も忘れてはならない。

相手の手の内を知らずにこちらから発信するのは危険と云う発想をする。

しかしこれからは、あえてこちらからメッセージを発信するリスクを冒してでも、相手の真意を探る事が必要となる状況が増えてくる。

企業の最前線、外交、安全保障の場では、今後レーダーのように色々なメッセージと云う電波を発信、その反応を読み相手の狙い、動きを察知する機能が必要となる。
*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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2011年5月23日月曜日

有為な人材とは何か(戦略コミュニケーションで斬る*第14回)

今回は有為な人材とは何かを考えてみたい。

以下、5月22日付の日経新聞、風見鶏の中で取り扱われた文章である。

国家の危機に有為な人材を登用するのは当然。 
官房副長官に就いた後、萎縮していた官僚たちを「俺が責任をとる」と言って奮起させたのは、仙谷氏だ。 
人事の評価を一概には決めつけられないが、それにしても「他に人はいないのか」と言いたくなってしまう。(2011年5月22日日経新聞2面 風見鶏より抜粋)

有為な人材とは何かを考えてみる。

大辞林をによると、有為とは「形や状態をつくる事ができる」と云う意味合いであるそうだ。

すると、それができる人材が有為な人材ということになる。

具体的な状態をつくるためには、人の世である限り、自分以外の周りの人々がその状態をつくるために行動を取って貰わないと実現できない。

言い換えると有為な人材とは人々を行動させる人材のことである。

「俺が責任をとる」と云う一言が官僚を奮起させ、行動させる。

しかし、それは言葉だけの問題ではない。

人が言葉からメッセージを受け取る比率は35%と言われている。残りの65%は非言語による。

その非言語の殆どがその人の覚悟、つまり意志のあり方によって左右される。

覚悟する事ができるか否かがメッセージ性を決める。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

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田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
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2011年5月20日金曜日

コミュニケーションの正攻法、「根回し」のススメ(戦略コミュニケーションで斬る*第13回)

「根回し」と云う言葉がある。

時々によって良くも悪くも使われる。

会社生活の中ではよく「役員会の前に役員メンバーとの根回しをしっかりやれ」とか日本のビジネスマンにとっては必要不可欠なスキルとして扱われることもある。

一方、根回しによるコンセンサス重視のため、海外では日本の意思決定の遅さの元凶ととらえられることもある。

この「根回し」と云う言葉、コミュニケーションの視点から考えると結構「活けた」手法である。

コミュニケーションにとって「メッセージの一貫性」と「サプライズ発信の最小化」は基本中の基本である。

この2つができていないと信頼醸成が出来ず、コミュニケーションそのものが毀損する。

サプライズ発信を使う政治家として小泉純一郎さんがいる。

サプライズで支持を得るというやり方は基本的にはコミュニケーションの王道ではない。

一種の奇襲戦法である。

奇襲と云うのは勝敗を決めるような場合に有効な手法である。

孫子の兵法でも「兵とは危道なり」と言って、敵の想定外を攻める奇襲が勝敗の鍵を握ると主張する。

勝敗の白黒をつけるような選挙のような戦うコミュニケーションではサプライズと云う奇襲戦法は効果はある。

しかしながら、サプライズ発信はある程度コミュニケーションの天才的なセンスが求められる。誰でもができるわけではない。

実際の戦いでも奇襲は天才でなければ使え得ぬ技と言われている。奇襲で平家を滅亡に追いやった源義経然りである。

やはり天才で無い普通のリーダーはサプライズを使わない正攻法で攻めるべきである。

その際に役に立つのが「 根回し」という日本固有の発想である。

方針や政策について関係者への根回しをしっかりやる事によって、関係者の間でのサプライズを最小限に抑える。

結果、反動を和らげ、方針や政策の実現性を高める事ができると同時にメッセージの一貫性を保ち易くなる。

根回しのコミュニケーションレバレッジが効いてくる。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

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田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
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2011年5月18日水曜日

今、目の前にあるチャンス(戦略コミュニケーションで斬る*第12回)

世界が多極化する中で、国の発信力が益々問われて来る。

一国の発信力はこれからますます弱まって来るのが世界の趨勢である。

アメリカや中国と言えども、世界世論の流れには抗えなくなって来ている。

今後、国の発信力を上げて行く装置やプラットフォームが求められて来る。

国の世界への発信を拡声する装置の一つに国際会議がある。

大きく2つに分かれる。ダボス会議のようなNGOなどが主催する会議とG8サミットのように国家レベルで主催される会議である。

いずれにせよ、国際会議という拡声器を利用、世界世論をリードする事が国の発信力に必要となる。

その鍵は課題設定力である。

世界の課題をいち早く先取り、イニシアティブをとる。

その課題解決のために自国の知見、経験、知識を供出、他の国々の支持、協力を取り付けながら世界世論を引っ張っていく。

国益と世界益を一致させる広義の安全保障につながる。

フクシマに象徴される世界の課題を設定できるチャンスが、今、目の前にある。

従来の国際会議だけでなく、日本自からイニシアティブを取るフクシマ会議の開催は日本の今後の発信力を強める装置として真剣に考える価値あり。

タイミングは今年しかない。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

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田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
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2011年5月16日月曜日

有事におけるプレスリリースの役割(戦略コミュニケーションで斬る*第11回)

本来、プレスリリースは企業の商品、活動などを一般に知らしめるための方法である。

リリースをマスコミに配り、企業の商品や活動についての記事をなるべく多く書いて貰うことを主眼としている。

しかしながら、これは平時の時もの話。

有事になると状況が変わってくる。

有事は企業は責められる立場。

マスコミが企業はの責任として攻めて来る視点は以下の三つである。
  1. クライシスに対応すべく、今、何をしているのか。
  2. クライシスに対応すべく、これから何をするのか。
  3. クライシスが起こってから今までに何をして来たのか、更には、クライシスが起こる前に、それを未然に防ぐために何をして来たのか。
この3つの項目でマスコミは攻めて来る。

難関は3である。すでに過去のこと。これから見繕うことできない。

企業への批判、3がだいたい震源地。

よって、平時の時からアリバイ工作が必要。

クライシスが起こったあとでも、しかるべき対応をしていると云う証拠をプレスリリースという形で残すこと大変重要。

時には十年前ににまで遡ってマスコミは攻撃して来る。

アリバイ工作にプレスリリース重要。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。

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田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

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2011年5月13日金曜日

仏教は戦略コミュニケーションに通ずる(コミュニケーション百景 第14回)

今回のコミュニケーション百景は仏教の話から。「仏教と戦略コミュニケーション?」と思う事なく、しばしお付き合い願いたい。

無我、無常とは仏教における「空」を解くための概念。「空」を理解する事は難しい。

理解とはあくまでも左脳的把握を意味する。「空」はどうも右脳的把握が必要。

「空」とは何事にもこだわらない融通無碍で自由な境地ではと今のところ考えている。

そのためには2つのことを体感、体得、自覚することが必要。それが無我と無常。

無我とは自分という存在は周りとの関係性の中で自覚されるものという考え方。

「お陰様で」、「ご縁を大切に」、「周りから生かされている」などの表現は、この無我の発想から来る。

東洋的な考え方。無常は自分を自覚させている関係性が絶えず変わる中で、関係性の呪縛を解き、どう融通無碍に自分を自覚出来るかと云うこと。

これが出来ると「真の自由を得る」と仏教では考える。

仏教論はここまで。戦略コミュニケーションの発想からは3つの事を認識することが重要。
  1. 自己の立ち位置は周りとの関係性の中で確立する。
  2. しかし、その関係性は絶えず変化、関係性の変化に応じて自己の立ち位置を不断に確立して行くことが必要である。
  3. 関係性の変化への対応だけではなく、自らも関係性を変化させて行く戦略性が重要である。結果、戦略的な立ち位置がつくれる。
この3つの戦略コミュニケーションの発想、国や企業の立ち位置をつくる時も肝要。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

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2011年5月11日水曜日

飲み会の企画に学ぶ戦略コミュニケーションの要=○○力(コミュニケーション百景 第13回)

略コミュニケーションの要となるのは想像力である。

戦略コミュニケーションの視点から考える想像力には二種類ある。

想定したことを実現するために想像する。これ平時の想像力。

一週間後に会社の飲み会をやること想定、そこで何が起こるかイメージする。

場所は六本木、洒落たバーカウンターがある、飲みものはワイン、飲み放題、食べ物は洋風で軽く、立食で行く、などなどイメージ化。

このイメージされた事を実現するにはどうする。

そこから逆算、今からどの様な道筋で行くか、どの様な課題あるか、誰に相談するか、協力してもらうか、参加してもらうかなどなどを想像する。

逆に想定外の事が起こってしまった時に想像する。これ有事の想像力。

飲み会始まる直前に、仕事の関係で半分以上が参加できず。

これから何をしなければならないのかイメージする。

やるかやらないのか、準備された食事どうする、参加費激減支払いどうする、参加している人々への対応は、別の会に衣替えするのかなどなどイメージ化。

このイメージされた問題をこれからどの様な道筋で解決するのか、どの様な問題あるか、誰に相談するか、協力してもらうか、参加してもらうかなどなどを想像する。

有事の想像力が難しいのは、将来を想定して、逆算できない事。

まず、何を想定しなければならないかから始まる。

ここが難しい。将来仮説を類推せざるを得ない。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

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田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

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2011年5月9日月曜日

福沢諭吉「独立自尊」の精神に学ぶコミュニケーション(コミュニケーション百景 第12回)

(からの続き)「学問のすすめ」の中で福沢諭吉は「惑溺」した精神を粉砕するために「実学」を通じてより「強靭な主体的精神」を形成し、近代社会の「関係性のジャングル」を生き抜くことの必要性を説く。

「強靭な主体的精神」を形成するとは目前の課題を乗り越えるための価値判断を不断に流動する心構えを持つことであると考える。

言い換えれば「自ら自己の視点を流動化する」力をもつということである。

福沢諭吉は、この「強靭な主体的精神」を「独立自尊」、「独立の気象」と呼んだ。

そのためには価値判断を絶対化せず、相対的に見ること、そして知性の試行錯誤を通じて事物そのものではなく、その「働き」、「他との関係性」、「機能」を見る実験的精神の重要性を強調、物理学を学問の「範型」とした。

福沢諭吉曰く。
「東洋になきものは、有形に於いて数理学と、無形に於いて独立心と此の二点である」
更に、曰く。
「物の貴きに非ず、其働きの貴きなり」
「凡そ世の事物は試みざれば進むものなし」
更に、更に、曰く。
「物ありて然る後に倫あるなり、倫ありて然る後に物を生ずるに非ず。憶断を以って先ず物の倫を説き、其倫に由て物理を害する勿れ」
そして福沢諭吉は「強靭な主体的精神」を形成するための要として自己の偏執を不断に超越する精神的余裕を確保することを主張する。

福沢諭吉、曰く。
「浮世を軽く認めて人間万事を一時の戯(たわむれ)と見做し、其戯(たわむれ)を
本気に勤めてただに怠らざるのみか、真実熱心の極に達しながら、さて万一の時に
臨んでは本来唯之浮世の戯(たわむれ)なりと悟り、熱心、冷却して方向を一転し、
更に第二の戯(たわむれ)を戯(たわむ)るべし。之を人生大自在の安心法と称す」(福翁百話)
現代風に言い換えれば、「人生をゲーム感覚(戯れ)と捉え、ひとつひとつのゲームを真実熱心に本気で勤める」と言ったところか。

このように「真面目な人生」と「戯れの人生」と云う相反するものを同じ精神の器に同居させることが、かえって物事を相対的に捉える精神的余裕を確保することになると福沢諭吉は説く。そしてそれが真の独立自尊の精神があると唱える。

コミュニケーションの世界でも目前の課題解決に取り組む際「自ら自己の視点を流動化する」力をもつということは重要である。

コミュニケーションの世界では「視点の凝集化」、「意識の化石化」、そして「視点の絶対化」は自滅を意味する。

コミュニケーション実践の鍵は自らの「思い込みの呪縛」に捉われない「相対性理論」の習得にある。

将に「独立自尊」の精神である。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

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1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
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2011年5月6日金曜日

福沢諭吉”12の「ますます」”に学ぶコミュニケーション(コミュニケーション百景 第11回)

(からの続き)著作「民情一新」において福沢諭吉は語る。
「西洋諸国の文明開化は徳教にもあらず、文学にもあらず、又理論にも在らざるなり。
然らば則ち何処に求めて可ならん。余を以って之を見れば其れ人民交通の便に在りと
云はざるを得ず。」(民情一新)
福沢諭吉は近代社会においては精神的、物質的にも未曾有の緊密な相互依存関係が出現、社会の不特定多数との複層的な「関係性」の形成が物質的豊かさを実現、文明の進歩を加速化することを洞察していた。

福沢諭吉が洞察した近代社会の方向性とはどんなものであったのかを福沢諭吉の12の「ますます」という形でまとめてみた。
1.様々な社会関係の固定性がますます崩れてくる社会
2.人間相互の関係が一刻も固定せずますます不断に流動する社会
3.人間相互の交渉関係がますます複雑多様になる社会
4.そのため人間の交渉様式がますます複雑多様になる社会
5.環境や状況の変化がますます速くなる社会
6.精神は現在の状況にますます安住することができない社会
7.不断にますます目覚めていなければならない社会
8.価値基準の固定性が失われ判断基準がますます多元的となる社会、
9.それらの多元的価値の間に善悪軽重の判断を下すことがますます困難となる社会
10.伝統や習慣に代わってますます知性の占める役割が大きくなる社会
11.知性の試行錯誤による活動がますます積極的に必要とされる社会
12.不断の活動と緊張がますます増える社会
どうも我々が住む近代社会とは大変な世界であるようだ。
決して「楽」な世界ではない。
差し詰め、近代社会とは「関係性のジャングル」の時代と謂える。

福沢諭吉は、この「関係性のジャングル」の中では「主体性に乏しい精神」をもった者がまず、餌食になることを示唆する。

「主体性に乏しい精神」とはひとつの事柄を金科玉条の如く考え、特殊的状況に根ざした視点に捉われる精神であると定義する。

「主体性に乏しい精神」によって具体的状況を分析する煩雑さから逃れようとする態度を福沢諭吉は痛烈に批判する。

それは「視点の凝集化」であり、「意識の化石化」であり、「視点の絶対化」である。福沢諭吉はこのことを忌み嫌い「惑溺」した精神と表現する。

福沢諭吉曰く。
「広く日本の世事に就て之を視察するに、道徳に凝る者あり、才智に凝る者あり、
政治に凝る者あり、宗旨に凝る者あり、教育に凝る者あり、商売に凝る者ありて、
其凝り固まるの極度に至りては、他の運動を許さずして自身も亦自由ならず」
福沢諭吉は「凝る」ことを嫌った。

このような野蛮な「関係性のジャングル」をどう生き抜くかを指南した福沢諭吉の著作があの有名な「学問のすすめ」である。

日本で初めてのベストセラーである。当時の殆どの日本人が手にしたと謂われている。

それだけ、時代の要請に合致した内容のものであった。(つづく)

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

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2011年5月4日水曜日

福沢諭吉「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」に学ぶコミュニケーション(コミュニケーション百景 第10回)

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」

福沢諭吉の「学問のすすめ」の有名な冒頭の一節である。

この一節は単に人間すべて平等ということを謳っている訳ではない。

文明の進化、もっと端的に言うと文明の進化を支える物質的豊かさを実現する新しい「関係性」のあり方について言及したものである。

夏目漱石は近代社会の本質を「関係性」の視点から捉えた数少ない明治人のひとりであったが、もう一人、「関係性」という尺度から近代日本の本質を洞察した明治人が福沢諭吉であった。

夏目漱石がこの「関係性」を「呪縛」と捉え、“煩わしいもの”として考えたのに対して、福沢諭吉はより積極的な視点から考えた。

福沢諭吉はお馴染みの一万円札の顔である。

なぜ福沢諭吉が一万円札の表紙を飾ったかという背景については詳しくは知らないが、差し詰め、
「文明男子の目的は銭にある」
と表立って言い切って憚らなかった福沢諭吉の姿勢からきたものという推測もつく。

「文明男子の目的は銭にある」などは今時十分納得のいくことであり、昨今、「ホリエモン」騒動で七転八倒している自民党長老議員や放送業界、実業界のドン達などは福沢諭吉の爪の垢でも煎じて飲ませれば良い。

近代社会の最も大きな特徴は物質的、経済的豊かさを実現したことである。

その豊かさによって文明の進歩が支えられている。

「文明男子の目的は銭にある」という福沢諭吉の言葉は、このような文脈の中で語られたもので、文明男子たる者「文明進歩」の尖兵たれと発破をかけているのである。

近代とそれ以前の社会とを区別する最も大きな違いは物質的、経済的豊かさの飛躍的向上である。

これはふたつの社会的関係性の変化によってもたらされた。

「分業の関係性」と「競争の関係性」である。

この社会的関係性の変化が大幅な生産性の飛躍につながることを最初に指摘したのが、「国富論」で有名な経済学の祖であるアダム・スミスである。

「国富論」の中で、アダム・スミスは「分業」という「関係性」が生まれたことによって従来はギルドという職人組合によって特定の職人に独占されていた様々な商品の製造プロセスに職人でない普通の人でも参加できるようになり、製造の生産性を大幅に引き上げた。

一方、それらの商品が取引される「市場」は「自由競争」という「競争の関係性」が導入されたことによって経済資源配分の最適化が実現することを説いた。

この2つの「関係性」が起動するためには従来の封建的身分制度からの開放が必要であり、人々はその身分や出自にかかわらず、自ら社会との「関係性」を積極的に構築する時代に入ったことを意味した。

その「関係性」がヒト、モノ、カネ、情報という資源を動かし、様々な経済活動を生み出し物質的な豊かさを実現した。

そして、ヒト、モノ、カネ、情報という事業資源をより有効的に囲い込む「関係性」を創り上げた者が市場における競争関係で他を駆逐するといった世界が出現した。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」
という一節は、このような時代認識の中で理解されるものである。(つづく)

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka

2011年5月2日月曜日

グローバル化するコミュニケーション(後編)(コミュニケーション百景 第9回)

(からの続き)日本的なコミュニケーションは、プロレスのように、見える部分と見えない部分の微妙なバランスの上で成り立っている。

コミュニケーションのグローバル化は「公」(Public)の世界での戦いである。

グローバルという異文化世界が錯綜するところでは、オモテの世界での勝敗しか認められない。

日本は欧米と比べると、非常に「ブラック・ボックス」化した社会である。

企業や国の意思決定や情報共有の部分で多くの「ブラック・ボックス」が存在する。

情報は限定された当事者間で囲い込まれており、意思決定のプロセスも不透明な部分が多い。

情報開示と透明性は時代の要請であり、避けては通れない時代のうねりである。

このグローバルな流れが、この日本的な不透明さを一気に押し流す。

もはや、オモテとウラをうまく使い分ける従来のやり方は通用しない。

企業も国も、これからは、「公」(Public)の舞台に引きずり出される時代なのである。

それは「世論」であり、さらに国の場合は「国際世論」という舞台である。

そこではオモテの世界のルールに従ったコミュニケーションのやり方が強さを発揮する。

従来の当事者間での「利害」中心のウラのコミュニケーションから当事者関係を超えた「共感」中心のオモテのコミュニケーションへのパラダイム転換である。

「公」(Public)の世界でどう戦うか。

開かれた世界において、メッセージ性を高めるコミュニケーション力学を身につけることが必要不可欠な時代になる。

*「コミュニケーション百景」。このシリーズのモットーは“コミュニケーションを24時間考える”です。寝ても覚めてもコミュニケーションを考えることを信条にしています。コミュニケーションでいろいろと思いつくことを書き綴っていきたいと思っています。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

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