2011年2月9日水曜日

支持率の呪縛にあっている日本の政治 (戦略コミュニケーションで斬る* 第3回)

鳥インフルエンザーが宮崎県で猛威をふるっているが、政治の世界では支持率インフルエンザーが猛威をふるっている。

どうもこの10年ほどで支持率=民意という構図をもった病原体が日本の政治の中で増殖している嫌いがある。これが日本の政治の混乱の一つの原因になっている。

この病原体の発生のきっかけをつくったのは小泉純一郎首相である。小泉首相は世論の力学を巧妙に使いきった日本で初めての総理大臣である。

世論をテコに自民党の派閥力学を叩き、当時、野党第一党であった民主党のマニフェスト攻撃をかわした。

結果、6年にわたる長期政権を維持する。小泉首相は支持率が世論力学を稼働させる鍵であることを十二分に認識しており、支持率を大いに利用した。その結果、支持率偏重の流れが政治の世界に定着してしまった。

最近はへたすると週に一回のペースで支持率がマスコミ各紙から報道されるといった異常な状況である。

しかしながら、小泉首相は支持率を利用したものの、それに振り回されることはなかった。問題はその後を継いだ歴代の首相の方々である。程度の差はあるにせよ、皆、支持率を利用するどころか、支持率にまったく翻弄されている。極端な言い方をすれば支持率を見て政治を行っている。

自分が長く籍を置いた自動車の世界では「市場調査では車はつくれない」という格言めいたものがある。市場調査とは言い換えるとユーザーの支持率調査である。この支持率調査を見て、それを鵜呑みにして車をつくるとえらいことになる。市場調査によっていくらユーザーの声を聞き、その声に従って車を開発しても売れる車はつくれない。ユーザーが既に気づいているニーズをいくら反映して車をつくってもユーザーは満足しない。売れる車をつくるには、ユーザーがまだ気づいていない潜在的なニーズをつかむことである。自動車の開発では設計・開発者のあくなき探求心と“このような車をつくりたい!”という強い情熱が車づくりの成功の是非を握る。ユーザーの潜在的なニーズを何としても先取りして捉まえるという設計・開発者の使命感ともいえる“覚悟”が必要となる。

ホンダに籍をおいていたころこのような使命感と覚悟を持つ“車の神様”のような人たちがいっぱいいた。彼らが、どんどんユーザーの潜在ニーズを先取りしていくのである。市場調査も重要であるが、車づくりではあくまで補完的なものであり、最終的にそのデーターを生かすも、殺すも設計・開発者の覚悟による。

政治の世界でも同じである。国民がまだ気づいていない課題やニーズをしっかりと先取りし、捉まえ、政策として打ち出すことが政治の使命である。支持率だけでは本当の国民の課題を吸い上げることはできない。「支持率=民意」という構図は危険である。支持率には表れない潜在的民意をというものを先取りして捉まえることが本当に民意に応えるということである。ここでも政治家の“覚悟”が問われる。

*「戦略コミュニケーションで斬る」。このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。(前回の「戦略コミュニケーションで斬る」はこちらから)

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「
オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka

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