2012年7月20日金曜日

孫子を実践的に読み解き直す

人間の最大の敵は人間の意識である。有史以来、これは変わらない。

今、世界が直面している様々な問題においても突き詰めていくと最終的には人の意識が変わらないという一点に行きつく。「敵は内にあり」で人間自身の問題なのである。

人間の意識の中に人間の最大の敵が隠れている。

ホンダの創始者本田宗一郎さんが「人の意識は大型タンカーの様にイナーシアが強い」という事を話してくれた事がある。イナーシアとは物理学で習う慣性の法則の慣性を意味する。慣性とは摩擦がゼロとするとある物体に一定の力をかけると、その物体は一定のスピードで一定の方向にずっと走り続ける性質のことである。

本田さんは人間の意識も同じように強い慣性を持っていると言う。大型タンカーのようなものだと。大型タンカーは舵を切っても5~6kmは直進してしまう。人間の意識も同じで直ぐには方向を変えられない。

経営が直面する最大の課題は変わらない人間の意識をどう変えていくかである旨を話されたことがある。1989年、日本人として初めてアメリカの自動車業界の殿堂入りの式典に参加するためにデトロイトに来られた時の話である。自分は当時ホンダのデトロイト事務所の責任者をしていた時の話である。

これが人の意識を変えるコミュニケーションという力が経営にとって如何に重要かという事を認識した時でもあった。戦略コミュニケーションの世界で生きることを決めた瞬間でもある。

経営の最大の悩みは人が思うように動いてくれない、人が想定外の動きをする、言い換えれば社員が事業戦略実現に思うように動いてくれない、顧客が自信を持って勧めている商品を買ってくれない、投資家が事業に投資してくれない、当局が事業戦略戦略実現のための障壁を理解してくれない、世論が事業活動の成果を正当に認めてくれないなどなど、経営の本質はこの変わろうとしない人の意識と向かい合い、人を動かすことである。

古今東西の多くの古典がこの人の意識とどう向き合うかという厄介なテーマを取り上げてきた。中でも秀逸なのが「孫子」である。兵法書というよりも人間意識の研究書と言ったほうがピッタリくる。

孫子は最古の兵法書として多くの人が夫々の立場から読み解いている。兵法や中国古典の専門家以外でも経営的視野から、リーダーシップ論の視点から、更には人生教訓の考えからなど様々な解釈、読み解きがなされている。

しかしながら正直なところ、その多くのものが表層的で、実践的な側面が欠落している印象を拭いきれない。中にはここまでこじ付けるかと驚く程に安っぽい人生指南書如きものもある。26年以上戦略の実現に資するコミュニケーションに携わって来た経験から孫子に接すると

その主題は「人の意識を変える、動かす」の一言に尽きる。

孫子をより実践的な書として現代に蘇らせることが出来たらという強い思いがある。

そこで孫子を戦略コミュニケーションの視点から読み解き直すことにした。孫子は戦略コミュニケーションを体系的に理解する上でまたと無い古典である。

欧米流のコミュニケーションが限界を迎えている昨今、東洋の代表的な古典である孫子の発想を使って、世界で今起こっている最先端のコミュニケーション力学を更なる次元にまとめ上げていくことができれば面白い。

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