2015年2月5日木曜日

世界で勝つ方程式、戦略コミュニケーションの発想 (1)

2015年はクライシスモードで始まった。

まずはマクドナルドの異物混入。ナゲットへの青色ビニール片の混入を発端に一斉に過去の異物混入のケースが表面化する。正月明けに記者会見を開くが事態はますます悪化、マクドナルドの事業活動に大きな影響を与える。今後、食の世界では過去公表されていない異物混入噴出への対策、初動対応の迅速化など新次元のクライシス対応が求められる。 
アメリカで炎上しているタカタのエアーバッグ問題では、昨年行われた2回の公聴会でタカタが立場を明らかにしたものの炎上は加速、アメリカ世論はタカタ糾弾に動き出す。更にはホンダやトヨタなど自動車メーカーにまで火の粉が飛ぼうとしている。自動車の電子化に加え海外生産の拡大がサプライチェーンからくるリスクを空前のレベルにまでに押し上げている。クライシス対応の巧拙が経営全体に影響を及ぼし始める。
最後はイスラム国による日本人人質問題である。安部首相の中東訪問時の難民への人道支援の発言から拉致された日本人2人の身代金要求へと発展、結果最悪の事態になる。日本にとって-“テロ”が身近かなものとなる。外からの脅威というリスクの増大が日本の世界での中立的な立ち位置に大きく影響する事態になった。一つは世間の関心が危機の事後に集中し過ぎている。事が起こってからどのように対応したかが議論の中心になっている。対応の是非を精査することは重要だが、何故事態を回避できなかったかと云う事前の議論も重要である。クライシスは回避するに越したことはない。個人も、企業も、国も新次元のリスク管理が問われてくる中で尚更のことである。

世界はコミュニケーション戦争に突入していると言っても過言ではない。政治や外交だけではない、ビジネスにおいても。また中東やウクライナなど特定地域に限られたことではない。全世界がコミュニケーションの戦場なのである。お互いにメッセージというミサイルを撃ち合い戦っている。それらがいろいろな思惑、誤解、曲解、牽制、妥協を生み、 武力による戦争以上に、市場での競争を超えて、人々を動かし政治、外交、ビジネスにおいて新たな現実を作り上げている。これが価値観の多極化、利害錯綜のグローバル化、社会のネット化がもたらす今の現実である。
ここではコミュニケーションの力学が物を言う。メッセージというミサイルで相手を直接攻撃する。相手が発信したものを捉えてこちらのメッセージで迎撃する。そこでは発信するだけでなく、空気を読む、読まれまいと云う受信の攻防戦も繰り広げられる。世間ではコミュニケーションは発信であるという思い込みがあるが、全ては受信あっての発信である。コミュニケーションの戦場での稚拙で無防備な発信は命取りになる。Aと発信しても相手はBと受け取る。コミュニケーション世界の基本前提である。だからこそ、相手に確実にAと伝わるようにコミュニケーションを発想する。相手によって伝わるメッセージが異なるという現実を直視することである。誤解、曲解の世界なのである。誤解は解けるが、曲解は解けない。達が悪い。今回の日本人人質事件もイスラム国による曲解である。いくら人道支援だと言っても相手は意図して聞く耳を持たない。

これらの一連の危機はひとつひとつが固有で一過性のものとして捉えるべきではない。有事365日の時代の到来を象徴した出来事と考える事が肝要である。その対応や報道内容を見ていると、この異次元での危機の時代を向かえる上で日本の企業、日本の国、更には日本人として欠けてるものが幾つか見えてくる。しかしながら、最も懸念されるのが戦略コミュニケーションの発想の欠如である。
マクドナルドは昨年に食肉偽装の問題でクライシスを経験している。その経験に基づいたしっかりとした発信が全く為されなかった。稚拙な発信であった。タカタのエアバッグ問題もかなり以前から顕在化、対応の甘さは否めない。アメリカ世論の空気が読めない中での無謀な発信であった。安部首相の中東訪問にしてもタイミングが悪い。あるコメンテーターが「イスラム国は日本を敵にする意図が既にあった」と述べた。全く間違った認識である。コミュニケーション力学を心得ない誤ったコメントである。安部総理の発信をこれ幸いと利用、イスラム国のプロパガンダに使ったのである。法外な身代金請求はダメもとである。内容はどうであれ日本の発信がイスラム国に口実を与え、最悪の事態を招く結果となった。

発信したものがメッセージではない。相手に伝わったものがメッセージである。有事365日の時代にコミュニケーションを力として意識しないことは、国にとっても、企業にとっても自殺行為に等しい。世界がコミュニケーション戦争の修羅場と化している中を武器、弾薬も持たずに戦場を歩くようなものである。コミュニケーションをいかに有事の政治力、外交力、経営力に転換できるかがこれからの”勝負”を決める。戦略実現のための力学としてコミュニケーションを見る発想が必要となる。戦略コミュニケーションの”発想”である。

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